結論としては、
「財産をすべて相続させる」遺言がある場合、相続債務(借金)も原則としてその相続人だけが承継する。遺留分侵害額の算定において、遺留分権利者の法定相続分に応じた相続債務の額を加算することはできない。
仮に遺留分権利者が債権者から請求されて借金を支払った場合でも、遺留分額に上乗せできず、承継した相続人に求償するだけとなる。
被相続人は、「私の財産の全部を長男(被上告人)に相続させる」という内容の遺言を残した。法定相続人は2名(長男=被上告人、次男=上告人)であった。
相続財産は以下のとおりだった。
積極財産(プラス):4億3231万7003円
消極財産(借金):4億2483万2503円
遺言に基づき、長男が全財産を相続した。
これに対し、次男は遺留分減殺請求(当時の制度)を行い、次のように主張した。
■ 上告人(次男)の主張
被相続人の借金の一部を次男も負担することとなると遺留分侵害額が多くなる。そのため、次男は、被相続人の借金は「可分債務」だから、法定相続分どおり各人1/2負担のはずであるので、遺留分の侵害額を計算する際には次男が負担すべき借金1/2(約2億1,200万円)を遺留分に加算すべきある。そうすると侵害額は約2億1,400万円になると主張した。
■ 被上告人(長男)の主張
これに対し、長男は、遺言で「すべて相続させる」と指定されている以上、借金もすべて長男が引き継ぐこととなり、遺留分侵害額の算定に相続債務を加算することはできないとし、遺留分侵害額は187万円であると主張した。
■ 最高裁の判断
最高裁は以下の重要な判断を示し、長男の主張を認めた。
■ 1. 「全部を相続させる」遺言 ⇒ 借金もすべてその相続人が承継する
遺言により相続分がすべて指定された場合、特段の事情がなければ、積極財産だけでなく、相続債務(借金)もすべて承継させる意思表示があったと解すべきと判断した。
つまり本件では、借金はすべて長男が承継すると解される。
■ 2. 遺留分侵害額に「相続債務」を加算することは許されない
遺留分侵害額とは、遺留分の額 -(相続によって取得した額)+(権利者が負担すべき相続債務)により算定されるが、この「負担すべき相続債務」は、遺言の内容に基づき実際に承継した債務額を意味する。
本件の場合、長男が相続債務をすべて承継し、次男は承継していないため、次男の遺留分の計算において考慮すべき債務は「ゼロ」となる。
したがって、遺留分権利者の法定相続分に応じた借金額を遺留分に加算することはできないとした。
■ 3. 仮に遺留分権利者が債権者から請求されて借金を払ったら?
民法上、債権者に対しては法定相続分に従って支払義務が生じるため、次男が債権者から請求される場面はあり得る。
しかし、最高裁は、その場合であっても、支払った額を遺留分侵害額に加算することはできず、相続債務を承継した相続人に求償できるだけとした。
■ この判例が実務にもたらす意義
1. 「全部を相続させる」遺言の効果がより明確になった。
借金も含めて相続分指定が及ぶことが明確になった。
2. 遺留分侵害額を増やす目的で「借金を加算する」主張は通らない。
遺留分侵害額の算定方法が安定した。
3. 遺言で全財産を特定相続人に承継させた場合の遺留分紛争で重要
特にプラス財産とマイナス財産が混在する事例で実務上有用。
4. 適切な遺言作成の指針となる
遺言で相続人を特定する場合は、借金も含めた効果を念頭に置く必要がある。
■ 弁護士からのコメント
本判例は、相続分指定の効力、相続債務の承継、遺留分侵害額の算定方法を整理した重要判例です。特に、「遺留分を増やすために相続債務を加算する」主張を明確に排斥した点が実務上大きな意味を持ちます。
遺言により全財産を承継する相続人と他の相続人との間で、遺留分が問題となるケースでは必ず参照すべき判例です。
■ まとめ
「すべてを相続させる」遺言がある場合、特段の事情がなければ、借金も含めて指定された相続人が承継するため、遺留分侵害額に相続債務を加算することはできない。
遺留分権利者が債権者に支払った場合でも遺留分額には反映されず、求償にとどまる。
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